【第8回】相続土地国庫帰属制度とは?「いらない土地」が増える時代に知っておきたい土地との向き合い方
【「土地が欲しい」から「土地を手放したい」時代へ】
かつて日本では、「土地は資産」と言われてきました。
高度経済成長期やバブル期には、「土地は持っているだけで価値が上がる」と考えられ、多くの人が土地を所有することに大きな価値を見出していました。
しかし現在、その常識は大きく変わりつつあります。
人口減少や少子高齢化が進み、地方では空き家や空き地が増加しています。
相続によって土地を取得したものの、
「使う予定がない」
「売りたいけれど買い手が見つからない」
「毎年固定資産税だけを払い続けている」
という悩みを抱える人が全国で増えています。
このような背景から、「負動産(ふどうさん)」という言葉も広まりました。
資産であるはずの土地が、維持費や管理負担を伴う「負担」になってしまうケースが増えているのです。
こうした社会問題を受け、2023年4月にスタートしたのが「相続土地国庫帰属制度」です。

【相続土地国庫帰属制度とは】
相続土地国庫帰属制度とは、一定の条件を満たした相続土地について、所有者が国へ引き渡すことができる制度です。
これまで日本には、不要になった土地を国へ返す制度は原則として存在していませんでした。
そのため、
・利用予定がない土地
・売却できない土地
・管理だけが続く土地
であっても、相続した以上は所有し続ける必要がありました。
相続土地国庫帰属制度は、このような課題を解決するために創設された制度です。
ただし、「不要だから返せる」という単純な制度ではありません。
利用には厳しい条件が設けられています。
【なぜこの制度が必要になったのか】
制度が創設された背景には、日本の土地事情があります。
現在、日本では人口減少が進み、地方を中心に土地需要が縮小しています。
さらに、高齢化が進んだことで相続件数も増えています。
その結果、
・誰も住まない実家
・活用予定のない農地
・山林
・利用されない宅地
などが全国で増加しています。
相続人にとっては、
「親から受け継いだ土地だから簡単には手放せない」
という気持ちがある一方で、
管理や税金の負担は毎年発生します。
つまり、
「土地を持つこと」が必ずしもメリットではなくなってきた
という社会背景が、この制度を生んだ大きな理由です。
【金融知識:土地は「資産」と「負債」の両面を持つ】
土地は資産として評価される一方で、所有しているだけでもさまざまなコストが発生します。
例えば、
・固定資産税
・都市計画税(対象地域の場合)
・除草や樹木管理
・建物の維持管理
・災害時の安全管理
などです。
さらに、空き家を放置すると景観や防犯の問題につながり、自治体から改善を求められるケースもあります。
つまり、不動産は「持っているだけで利益が出る資産」ではなく、「維持・管理も含めて考える資産」であることを理解しておく必要があります。
【制度を利用するための条件】
相続土地国庫帰属制度は、すべての土地が対象になるわけではありません。
制度では、
・建物が建っていない土地
・他人の権利が設定されていない土地
・土壌汚染がない土地
・境界などに大きな問題がない土地
など、一定の要件を満たす必要があります。
また、申請すれば必ず認められるわけではなく、法務局による審査が行われます。
条件を満たさない場合は、申請が認められないこともあります。
【国へ返すにも費用がかかる】
「国に返す」と聞くと、無料で引き取ってもらえるように感じるかもしれません。
しかし、制度を利用する際には、
・審査手数料
・負担金
などが必要になります。
負担金は土地の種類などによって異なりますが、制度はあくまで「管理が困難な土地を無条件で引き取るもの」ではありません。
そのため、利用を検討する際には費用面も含めて確認することが大切です。
【制度だけが答えではない】
相続した土地については、国へ返す以外にもさまざまな選択肢があります。
例えば、
・売却する
・賃貸する
・駐車場として活用する
・事業用地として活用する
・福祉施設や地域に必要な用途として活用する
などです。
土地の立地や広さ、地域の需要によって適した方法は異なります。
制度を利用する前に、「活かす方法はないか」という視点を持つことも重要です。
【土地活用という選択肢】
相続した土地のすべてが高い収益を生むとは限りません。
しかし、「使われていない土地」を「地域で必要とされる土地」へ変えることは可能です。
近年では、
・住宅
・商業施設
・福祉施設
・医療施設
・地域交流施設
など、土地活用の選択肢は多様化しています。
重要なのは、「流行している方法」を選ぶことではなく、その地域に求められている用途を見極めることです。

【土地を「残す」だけが相続ではない】
相続というと、「資産を子どもへ残すこと」が目的だと考えられがちです。
しかし、本当に大切なのは、
「負担まで残していないか」
という視点です。
管理が難しい土地をそのまま引き継ぐことは、次世代にとって大きな負担になる可能性があります。
だからこそ、
・保有する
・売却する
・活用する
・国庫帰属制度を検討する
など、さまざまな選択肢を比較しながら判断することが重要です。
【これからの土地所有に必要な考え方】
これからの時代は、「土地を持つこと」そのものではなく、
「土地をどう活かすか」
が問われる時代です。
人口減少や社会構造の変化が続く中で、土地との向き合い方も変わっていくでしょう。
相続土地国庫帰属制度は、その変化を象徴する制度の一つです。
制度を正しく理解し、自分の土地にとって最適な選択肢を考えることが、将来の安心につながります。
土地は「所有すること」が目的ではありません。
その土地が持つ可能性をどう活かすか。
それが、これからの土地活用において最も重要な視点と言えるでしょう。